数字で経営方針を実現する参謀の力FP&A
― 中小企業が学ぶべきFP&Aの12原則 ―
多くの中小企業には「経理」はあっても、「財務部門」は存在していないことがほとんどです。経理は過去の取引を正確に記録し、決算をまとめる重要な役割を担っていますが、“将来のキャッシュをどう設計するか”という機能は手薄になりがち です。
大企業では、財務部門が将来の資金計画や調達・投資のバランスを考えます。しかし中小企業では、経営者が日々の資金繰りや判断を担うため、
将来の数字を体系的に考える仕組み(FP&A機能)が後回しになりやすい のが現実です。
そこで重要になるのが、FP&A(Financial Planning & Analysis:財務計画と分析) の考え方です。FP&Aとは、過去の数字をまとめることではなく、
数字をもとに“これから何をすべきか”を考え、未来の行動計画に落とし込む仕組み のことです。FP&Aは経理や財務の延長線ではなく、数字を使って経営判断の質を高めるためのマネジメント機能 です。欧米ではCFO直下に設置される企業も多く、経営の参謀として定着していますが、中小企業にこそ必要な視点と言えます。
FP&Aとは何をする役割か
FP&Aは、企業が「経営の判断精度」を高めるための仕組みです。データやKPIを分析するだけではなく、戦略と実行、財務と非財務、数値と人を結びつける統合的な経営管理 を行います。
つまりFP&Aは、「現在までの過去」に責任を持つ経理業務とは異なり、
「未来を設計する財務」 です。予算や報告書を作るだけでなく、
“数字をもとに何を変えるか”を経営と一緒に考え、行動につなげる役割です。
FP&Aの12の原則(日本語版)
FP&Aの12原則は、経営計画や予算管理を「戦略と実行」「財務と非財務」「数値と人事」を統合的に管理するための指針です。IMA(米国管理会計士協会)が世界中の優良企業を調査して導き出したもので、FP&A担当者・経営企画・CFOが実践すべき「経営管理のベストプラクティス」を体系化しています。
【Ⅰ.基礎原則(Fundamental Principles)】
1️⃣ 戦略的な長期計画を策定し、それを実行するための具体的施策やプロジェクトを明確にする。
 → 単なる「数値計画」ではなく、「経営戦略をどう実行に落とし込むか」を重視する。
2️⃣ 各プロジェクト・計画の実行に必要なリソース(人・物・金)を特定し、予算に反映する。
 → FP&Aの役割は「数字を作る」ことではなく、「戦略を実現するために必要な資源を正しく配分すること」。
3️⃣ 業務計画が財務成果にどうつながるかを理解し、その進捗を継続的にモニタリングする。
 → 「現場活動」と「財務結果」をつなぐストーリーを明らかにする。
4️⃣ 計画と実績の乖離が起きたとき、その背後にあるビジネス上の原因を迅速に特定する。
 → 単なる差異分析ではなく、「なぜ」を言語化し、意思決定に活かす。
5️⃣ 財務または業務目標に遅れが生じた際は、迅速に軌道修正を行う。
 → FP&Aは「監査役」ではなく「航海士」。計画からのズレを早期に修正することが使命。
【Ⅱ.説明責任の原則(Accountability Principles)】
6️⃣ 財務・非財務の両方の目標を、組織の各階層にブレークダウンして展開する。
 → 「トップダウン」だけでなく、現場のKPIとつながるようにする。
7️⃣ 財務成果に対して明確な責任を持たせ、その結果を報酬などのインセンティブに結びつける。
 → 収益・利益などの成果を、担当者や部門評価に反映する仕組みを設ける。
8️⃣ 業務(非財務)成果にも責任を持たせ、その結果をインセンティブと連動させる。
 → 営業件数、製造歩留まり、顧客満足度など、非財務指標も「成果管理」の対象とする。
【Ⅲ.高度原則(Advanced Principles)】
9️⃣ ビジネス成功の要因(ドライバー)を明確にし、それに対応するKPIを設定する。
 → 「利益の原因」を特定し、定量化して追跡する。
🔟 そのKPIに対して、短期・中期・長期の目標値を設定する。
 → 「今期の目標」だけでなく、「3年後にどうなりたいか」を数字で示す。
11️⃣ KPI目標を達成するための具体的施策・プロジェクトを策定する。
 → KPIを「見て終わり」にせず、「行動計画」と紐づけて運用する。
12️⃣ KPIの達成状況を継続的にモニタリングし、その結果を報酬・評価制度と連動させる。
 → 数字を動かす「行動」までマネジメントのサイクルに含める。
FP&Aを中小企業に活かすために
中小企業にとって、「FP&A人材を新たに採用する」余力は限られています。しかし、それは「導入できない理由」ではなく、“今いる人材をFP&A的にリスキリングするチャンス” です。
経理担当者やシステム・IT担当者を、「数字を読む人」から「数字で未来を設計する人」へと育成する。それが中小企業におけるFP&A導入の第一歩です。さらに中小企業では、Equity(株式)による資金調達の力が限定される一方で、Debt(借入)をどう使い、どう配分するかが経営の生命線になります。大企業に比べて“お財布が小さい”分、資金配分の判断ミスが経営への影響を何倍にも広げます。
だからこそ、将来を常に見据えて財務構造を設計できるFP&A的思考を持つ人材を社内に育てることが、中小企業の持続的な成長を支える重要な投資なのです。
まとめ
FP&Aの12原則は、単なる理論ではなく、中小企業が「意思決定の質」を高めるための実務の設計図 です。数字は結果ではなく、経営の言語です。
FP&Aを理解し活用することで、経理は“過去を整理する人”から、“未来を設計する参謀”へと進化します。
―経理業務が、数字を読むプロだとすると、MVVで描いた未来を、数字で実現設計するプロが、FP&Aであり、社長の経営参謀の仕事です。ー
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